専門外来

頚椎変性疾患

頚椎変性疾患とは?

 頚椎変性疾患とは頚椎(首の骨)を構成する脊椎(骨)、椎間板、靱帯などが変形し、頚椎の中を走行する神経組織(脊髄、神経根)を圧迫して手足のしびれ、痛み、筋力低下などをきたす疾患の総称を言います。何が変形しかによって変形性頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症などと言い分けます。

頚椎を水平面でスライスにした図
脊髄、神経根は骨の筒の中を走行し、その前後には靱帯(後縦靱帯、黄色靱帯)が存在。更に前方に椎間板がある。

変形性頚椎症

 頚椎を構成する骨、靱帯、椎間板など様々な要素が変形して神経症状を生じる疾患で、 頚椎変性疾患の多くを占めます。通常、加齢性の変化が中心で、骨が変形して出っ張ったり、椎間板もすり減って飛び出たり、靱帯も長年の負担で厚く変化してきます。症状が出現するかどうかは出っ張りの程度や、頚椎の構造上の個人差などによって変わってきます。症状さえなければ特に治療の必要はありません。



図1:正常脊髄MRI
首を横から見たMRIです(写真左が前方:顔のある方向)。
四角い椎体(首の骨の一部)椎体の間には椎間板が存在し、その後方に縦に黒く見えるのが脊髄です。脊髄の周りには脳脊髄液が流れており、この脳脊髄液は正常であればこのMRIでは脊髄の前後に白く線状に見えます。

図2:変形性頚椎症MRI
変形性頚椎症では椎体、椎間板、靱帯など脊髄を取り囲む組織が変形し、脊髄、神経根が押されてきます。MRIでは脊髄の周りの脳脊髄液も見えなくなります。

図3:変形性頚椎症のCT
CTは主に骨の状態を観察する写真です。
変性した椎体()は正常の椎体(**)に比べ角がとがってきます。

頚椎椎間板ヘルニア

 これは変形性頚椎症の項にもある椎間板のみが飛び出して神経組織が障害される疾患です。若年者に多く見られ、加齢の影響もありますが、外傷、転倒など頸椎に強い力が加わったときに発症することが多く見られます。


椎間板ヘルニアのMRI
骨の変形などは乏しく、椎間板のみが飛び出して脊髄を圧迫する



頚椎後縦靱帯骨化症

 頚椎に存在する後縦靱帯という靱帯が骨のように硬くなる病気です。時には厚みを増して神経組織を押し、神経症状を呈することがあります。原因は遺伝、糖尿病などの関与が指摘されていますが解明されておらず、厚生労働省の定める難病に指定されています。難病といってもいわゆる不治の病ではなく、症状がどんどん進んでしまうことは極めて稀で、多くの場合軽い神経症状を呈するのみです。症状が出現しても症状に対する治療はありますので、あまり深刻に考えず、専門医に相談しましょう。



後縦靱帯骨化症のCT
椎体の後ろにある細長く白い組織が後縦靱帯の骨化したもの(
これが脊髄を圧迫することがある。


変形性頚椎症の症状

 頚椎変性疾患では神経が圧迫され、少しずつ神経の症状が出現してきます。具体的には腕や手のしびれ、痛み、力が入りにくいなどです。通常片方の手や腕に見られますが、時には両手や足にも見られます。首の体勢によって症状が出ることもあり、特に首を後ろに反らすと症状が強くなることがあります。


変形性頚椎症に対する当院の治療方針

 変形性頚椎症は症状の程度によって治療法を決めていきます。症状が軽く、特に生活に支障が無ければ経過観察でも構いません。ただし、普段から姿勢を良くし、首を激しく動かすことはなるべく避けましょう。症状がそれなりに強い場合は治療を行って行きます。

【治療法】
【1】投薬治療
【2】頸部安静療法
【3】高圧酸素療法(+点滴治療)
【4】リハビリ療法
【5】手術治療

通常は投薬治療、頸部安静などの治療からはじめ、効果を見ながら治療を強化していきます。ただし、症状やMRIなどの検査結果によっては 最初から手術治療を行ったほうが良い場合もあるので、正確な検査は必要です。

【1】投薬治療
症状に応じて様々な薬を組み合わせます。障害された神経を回復させる薬、痛みがあれば痛み止めなどです。骨や靱帯などの変形を薬で治すことはできませんが、症状さえ落ち着いてしまえば大きな治療は必要ありません。

【2】頸部安静療法
症状が強いときは首の安静が必要で、特に首を後ろにそらすのは多くの場合神経に悪い姿勢となります。 頚椎カラーやコルセットは頸部の安静に効果があります。可能であれば就寝時もつけた方が効果的です (就寝時は首の姿勢に対する意識が薄れ、神経にとって良くない姿勢が続くことがあります)。 ただし何ヶ月も続けると首の筋肉が衰えて逆効果になるので、1~2ヶ月程度にとどめたほうが良いでしょう。

【3】高圧酸素療法(+点滴治療)
高圧酸素療法は1日一回酸素カプセルに1時間半ほど入り、気圧を上げて酸素を体の中に送り込む治療です。スポーツ選手が体力回復に行うことで知られています。酸素を送り込み、障害された神経組織を回復させる治療で、約2週間の入院で行えます。同時に神経の血流を良くする点滴治療も行います。喘息や肺気腫などの呼吸器系の病気をお持ちの方はできませんが、治療自体に大きな害はありません。時に中耳炎が見られますが、治療終了後に改善します。効果にはややばらつきがありますが、手術が困難なご高齢の方にも行える治療ですので試してみてはいかがでしょうか。

【4】リハビリ療法
筋力低下が日常生活に影響する場合はリハビリによって筋力の向上を行います。通常は入院でのリハビリになるため、上記の高圧酸素療法なども同時に行います。当然、手術で入院された方も自宅生活に向け手術後のリハビリを行います。また、ホットパックやマイクロ波(温めて血流を増加させ筋緊張や疼痛の軽減をはかる)を行います。

【5】手術治療
手術は症状が急速に進行する場合、他の治療を行っても十分な改善がなく日常生活や仕事に支障がある場合、早期の治療効果を希望される場合などに行います。治療効果は【1】~【4】に比べ高く、症状の早期改善が期待できます。頚椎に対する手術は大きく分けると首の前から行う方法(前方固定術)、後ろから行う方法(後方除圧術)に分けられます。症状、病変の状態などいろいろな要素を考慮して手術法を選択します。当院には現在脊椎脊髄専門医(首や腰を専門とする者)が3名おり、北大病院の複数の専門医と共に手術法を検討し、手術も専門医が集まって行います。

■前方固定術:首の前から出っ張っている骨、椎間板を取って、チタンという体に優しい金属を入れてきます。


手術後のレントゲンで白く見えるのがチタン。手術後のMRIではチタンによる画像のゆがみがあるが、脊髄の圧迫は解除されている。


■後方除圧術:首の後ろを切開し脊髄の後ろにある骨を一部外し、脊髄の通り道を広げます



手術前には椎間板や骨の出っ張りにより圧迫されていた脊髄が手術後は圧迫が解除されている。 手術治療は効果が高いものの合併症が無い訳ではありません。合併症の無い手術はありませんが、脊椎脊髄手術の合併症率は全国一般的には3~5%です。
当院でも2009年の脊椎脊髄手術156例のうち何らかの合併症は3.8%で見られ、合併症により再手術を要したのは1.9%でした。

手術に要する入院期間はおおよそ2~3週間です。手術前に全身状態のチェックのため1週間ほど検査を行います。合併症がなければ手術翌日からカラーを装着して歩行を開始します。定期的にレントゲンやMRIによる検査を行いながら1週間で抜糸を行います。検査や創など手術後の問題がなければ退院できます。