札幌麻生脳神経外科病院

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お知らせ

飛驒院長が『脊椎・脊髄疾患の外科』を出版しました。






序文

本書を故岩崎喜信先生に捧げる

 「脊椎・脊髄疾患の外科」は2006年に三輪書店から出版されたが、この時の編者は北海道大学脳神経外科の教授であった故岩崎喜信先生と飛騨一利であった。北海道大学脳神経外科の同門諸氏にお願いして脊椎脊髄疾患のスタンダードな教科書を脊髄外科の認定医、指導医を目指す先生方、さらに医学生の為にも使用しうる教材として出版させていただいた。この時の序文には 次のような思いが書かれている。

 「本書は、脊椎・脊髄疾患の臨床に携わる上で必要となる知識を余すところなく提供することを目的としております。そのため、発生学から始まる臨床解剖、末梢神経疾患、神経学的診断、最新の画像診断、各種脊椎・脊髄疾患、末梢神経疾患、脊髄腫瘍の病理、放射線治療、神経内科的疾患とかなり幅広い分野を盛り込んだ本となりました。」「まだまだ不十分な点もありますが、本書が世に出ることにより、これから脊椎・脊髄の臨床に取り組む意欲のある先生方にとっては診断・治療を考える上での指標となり、神経外科領域における脊椎・脊髄疾患への関心の高まり、あるいは脊椎・脊髄外科医を目指す若手医師の増加の一助となれば、これに過ぎる喜びはありません。」

 本書の初版本は脊椎・脊髄疾患の診断、治療のバイブル的な教科書として幸いにも多くの先生方に好評のうちに迎えられたことから購入していただき、出版から10年を目処に改訂版を出版する計画であった。この方針のもと、岩崎喜信先生の弟子として"助さん・格さん"を自負する飛騨・小柳が編者となり、岩崎先生に監修をお願いして改訂作業に着手したところであったが、誠に残念なことに 2017年に岩崎先生が急逝されてしまった。改定作業は一時頓挫したのであるが、岩崎先生の遺志を継ぐべく、作業を再開してこの度改訂版を完成させることができた。

 今回は従来の内容を大幅に改訂した。北大リハビリテーション科名誉教授の生駒一憲先生らにもご尽力をいただき脊椎・脊髄疾患のリハビリテーションの項を新たに加えさせていただいた。末梢神経疾患も含む脊椎・脊髄疾患の外科に関してほぼすべてを網羅し、"これさえ読めば"といえる簡明な教科書を目指した。各疾患は、できるだけエビデンスに基づく記載を心がけ、曖昧な形容詞ではなく具体的な数値も載せた。執筆者は、前書と同様に、コンセプトに一貫性を持たせるため、脊椎・脊髄疾患の診断や治療に対する考え方や理解がほぼ同じ先生方を中心にお願いした。改定作業の遅れなど、執筆された先生には多大なご迷惑をおかけしたが、基本事項から高度な内容まで多くの知見を盛り込むことができた。執筆者の先生達に深く感謝するとともに、本書が、脊椎・脊髄疾患の外科を志す先生、この領域に関心のあるすべての先生と医学生達にとって役に立つ教科書であり続けることを切に願っている。

編者  飛騨 一利 /小柳 泉





書評

髙見俊宏  大阪医科薬科大学脳神経外科学

 脳神経外科医による脊椎脊髄外科の教科書として認知されていた初版『脊椎・脊髄疾患の外科』の第2版である本書は,故岩﨑喜信先生の弟子として"助さん・格さん"を自負される飛驒一利先生・小柳 泉先生の両編集による大がかりな改訂の力作となった。

 初版『脊椎・脊髄疾患の外科』は,故岩﨑先生が脊椎・脊髄疾患のスタンダードな教科書となるようにとの想いを込めて世に出された。その初版を細部にわたり最新情報に変更し,さらに脊椎脊髄外科の重要課題であるリハビリテーションなどの項目を追加し,脊椎・脊髄疾患の課題全体を網羅する総合的な外科教科書として生まれ変わった。

 総論の脊椎・脊髄の発生と解剖に始まり,神経学的診断,画像診断,各論では加齢変性疾患,腫瘍,血管障害,外傷,頭蓋頸椎移行部病変,先天性疾患,末梢神経障害,さらには臨床の盲点となりやすい非腫瘍性病変,疼痛・痙縮など,脊椎・脊髄疾患全体を包括しており,脊椎脊髄外科を志す医師にとってはバイブルといえる内容となった。知識の羅列に終始せず,手術手技の解説にも力点が置かれている。特に脊髄腫瘍,脊髄血管障害の解説においては,従来の教科書より,はるかに多い情報が記載されており,飛驒先生・小柳先生の豊富な治療経験を加味した内容は,他の同様の書籍を圧倒している。文章のみならず,豊富な診断画像・シェーマ,さらには手術画像などが掲載されており,学習しやすいように全体が整えられている点も好感が持てる。

 本書は,脊椎脊髄外科を実践する脳神経外科医・整形外科医だけでなく,さらには医学生諸君にとっても役に立つ教科書にするという飛驒先生・小柳先生の気概を強く感じる出来上がりとなった。飛驒先生・小柳先生は,私自身が尊敬する脊椎脊髄外科の達人のお二人である。そのお二人による『脊椎・脊髄疾患の外科』第2版は,脊椎脊髄外科の教科書の枠を超えて,初学者には明確な道標となり,経験豊かな者には知識を体系化する最適の書となった。脊椎・脊髄疾患の克服を願って,ここに本書を強く推薦する。




花北 順哉 藤枝平成記念病院副院長

脊髄・脊椎外科の聖地から出された教典のごときテキスト

 この度,私の長年の畏友であった故岩﨑喜信北海道大学名誉教授と飛驒一利先生の編集により,2006年に出版された『脊椎・脊髄疾患の外科』の第2版が,飛驒一利・小柳 泉両先生の編集により,装いも新たに出版された。本書の初版は,脊椎・脊髄分野における基本的テキストとして多数の医師や医学生に広く好評のうちに迎えられていた。

 北海道大学脳神経外科学教室は,初代教授の都留美都雄先生が教室のメインテーマとして,脊髄・脊椎分野をわが国の脳神経外科として初めて取り上げられた。それ以降,2代目の阿部 弘先生・3代目の岩﨑喜信先生と,この伝統が連綿と引き継がれており,この分野の臨床・基礎研究の両方面において,わが国のパイオニア,そしてオピニオン・リーダーとして数々の業績を蓄積してこられた。また,あまたの人材を輩出してこられ,脊髄・脊椎分野での聖地となっている誠に優れた教室である。
第2版は,初版と比べて内容が一段と充実している。各項目にわたって,その記述は十分に練り直されており,最近の知見も数多く取り入れられ,参考文献も重要なものが漏れなく含まれたものとなっている。

 本書に記載された内容は,単に外科的立場からの記述にとどまらず,神経系の発生学に始まり,臨床解剖,神経学的診断,最新の画像診断,鑑別すべき神経内科的疾患なども詳しく記載してある。北海道大学脳神経外科学教室は,特に脊髄腫瘍・脊髄血管障害,頚椎変性疾患に関する経験では,わが国で随一の蓄積があり,この知見に基づいた記述は,特に充実している。また,近年,ますます注目されている末梢神経疾患に関する記載も,十分な内容を含むものとなっている。さらに,第2版では,新たに脊椎・脊髄疾患のリハビリテーションの項が加えられている。脊椎・脊髄分野では,保存的療法は極めて重要な位置を占めており,術前・術後におけるリハビリテーションの役割は大きなものがある。この項目を加えられた編者らの卓見に敬意を表する次第である。まさに本書は編者らが序で述べているごとく「これさえ読めば」との目的を十分に達成した基本的テキストとして出来上がっている。

 近年の医学界においては,インパクト・ファクターの高い論文が高評価を得るのに対し,教科書の作成といった営為は多大な労を必要とするにもかかわらず,その評価が必ずしも高くない。しかし,医学の様々な分野におけるレベルを維持し,かつ若き医師や医学生を教育するためには,優れた教科書・成書は是非とも必要なものである。岩崎喜信先生の遺志を受け継ぎ,leading universityとしての責務を十分に果たし,立派なテキストを作り上げられた北海道大学脳神経外科脊髄班の先生方の労を多とするものである。

 故岩﨑喜信先生とともに学び,先生の指導のもとに育った先生方の総力を結集されて完成に至った本書の出版を心から喜ぶとともに,一人でも多くの医師や医学生が本書により,脊椎・脊髄分野の理解を深め,日常の臨床に役立てていただくことを心から願っている。